NHKスペシャル『命をめぐる対話 “暗闇の世界”で生きられますか』を見たよ

テーマは所謂「閉じ込め症候群」や「閉じ込め状態」。ALS(筋萎縮性側索硬化症)などにより、通常の精神状態を保ったまま身体の自由が完全に奪われる状態を指します。映画『潜水服は蝶の夢を見る』でも有名ですね。
柳田邦男氏と患者である照川貞喜さんの交流が中心になっていましたが、「完全な“閉じ込め状態”になったら死なせてほしい。闇夜の世界では生きられない。人生を終わらせることは“栄光ある撤退”であると確信している」と記した照川さんの要望書に関連したやり取りが興味深かったので、以下時系列にメモ。


柳田邦男氏の手紙

照川さんのところへお訪ねするようになって、半年にしかなりませんが、様々な事柄について新しく気づかされたり、考えを深めたりすることの連続でした。私はかつて脳死状態になった25歳にだった息子のベッドサイドにいたとき、息子と会話を交わし、生きることや人生について息子が元気だったとき以上にいろいろと学ぶことができました。
照川さんがご自分から意思を伝えることができない状態になっても、照川さんが尚も生きてそこに存在していることはご家族にとって、毎日の生活と人生の大きな支えになるに違いないという私の考え方について、どうお考えでしょうか。
照川さんにいつまでも生きてほしいと心から願っているのです。それは私の身勝手な願いだとは十分に承知しているのですが、周りの人がそういう願いを持つことについて、照川さんはどのように感じられるでしょうか。


照川貞喜さんの返答

柳田さんが訪ねてくれてうれしかった。楽しかった。語りがすばらしく良かった。情がある人だと思いました。
ただ、命については柳田さんの考えがわかりません。家族や社会のために生きろといわれても困ります。私が生きることで家族の支えになることは分かります。
でも家族のために生きろというのは私には酷な話です。人はパンのみで生きるのではない。意思の疎通があって生きられる。人それぞれ違いがあります。私は自分の道を選んだのです。
それだけです。


柳田さんに質問です。
私は命は自分のものだと思いますが、先生とは考えが少し違うように思います。先生はどう思いますか?


柳田邦男氏の回答

命ってもうひとつの側面があって、夫婦なり親子なりで共有している。だから片方がいなくなればとても悲しいしつらい。やっぱり共有した命はいつまでも続いてほしいという気持ちがある。そういう家族を見ている自分がまたはねかえって、ああ、自分はまだこの世に存在する意味があるのだというふうに思ったりね。


それを受けた照川貞喜さん

わたしはとてもつらい。


照川さんの妻

あぁ、つらいです。つらいからやっぱり…
その、何にも感じない人ならいいんですけど、この病気は何でも感じるじゃないですか、痛みでも。それを思うと家族の支えになってと言っても、家族はつらいんです。この状態を見て。


柳田邦男氏の手記

人間はひとりひとり個性のある物語を生きている。そして体には、その人の生き方や発してきた言葉が染み付いている。だから人は言葉を発することができなくなっても、身体が存在し続ける限り、生きることの根源的なメッセージを世の中に強い印象を持ってアピールし続けることができる。私が照川さんに生き続けてほしいと、切に思うようになってきたのはそうした理由によるものだ。
医学は延命の技術を飛躍的に発展させ、しかし、そこに生まれた新しい生と死の境界で苦悩する人々の問題と向き合ってこなかった。今こそ、医学と倫理の両面からその答えを探すべきではないか。

次男の自殺という経験を持つ柳田の気持ちは理解できないではない。残された者として照川さんと向き合ったのだろう。しかし、その言葉一つ一つが軽く、身勝手に感じられたのも否定できない(本人も身勝手だと語っているが)。照川さんの本音を引き出したという意味では、ジャーナリストとしてきちんと仕事をしたといえるかもしれない。ただ、「わたしはとてもつらい」